元証券営業マンの本音で語りたいこと

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顧客の資産1000万円が溶けた日のこと|投資した株式が粉飾決算で損失

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今回は、私の証券営業記として顧客の資産1000万円が溶けた日のことを書こうと思います。

 

投資した株式に粉飾決算が発覚したことが原因でしたが、私に取って初めての大幅な損失で、未だに忘れられない経験です。

 

顧客の属性と開拓経緯

その顧客は、貿易会社を営んでいる社長さんでした。

推定資産の総額は、だいたい10億円強くらいの印象でした。

お金持ちであることは間違いなく、年収も高額な方です。

 

新入社員の頃から飛び込みでその貿易会社に通い続けて、やっと落とせたのがアプローチしてから1年後でした。

受付のお姉さんに名刺を渡してパンフレットを渡すことを3ヶ月くらい1週間ごとに続けて、メチャクチャ嫌がられましたが、仕事なのでお願いしますと、何とか受け取ってもらっていました。

 

しかし、それでは全く社長とは会えず仕舞いで、入り待ちと出待ちの作戦を実行することにしました。

 

時間を変えながら繰り返していった結果、何度か接触できるようになり、半年以上続けたところで社長が折れてくれた格好です。

 

他社に口座のある方で、私とは外国株を取引きしてくれることに。

500万円から始めてもらって最終的には3000万円まで増やしてもらって、利益もそれなりに出ていたところに事件がおきました。

 

社長の資産1000万円が溶けた理由

外国株だけの取引きでしたが、買い付けに対しては社長の指名買いとこちらの提案が半々くらいで買い付けを行い、数週間程度の保有期間で銘柄を入れ替えていました。

 

取引には慣れている方でしたので損切りもしっかり行いますし、利益にガッツクこともなく、私自身色々なことを教わった顧客の一人です。

 

ある日の電話で、私はアナリストの推奨銘柄の中からあるアメリカ株をその社長に提案しました。

 

新興企業でしたが、その分成長性に期待できる銘柄であり、実際に株価は右肩上がりでしたので自信がありました。

 

提案後に社長も色々調べてくれ、アナリストのレポートにも目を通してもらい、買い付けに至ります。

 

その約2週間後くらいだったかと思いますが、事件が発生します。

 

その企業の粉飾決算が明るみに出たのです。

 

アメリカの株式市場には、ストップ安という制度がありません。

日本の株式市場には一日に下げることができる幅が値段ごとに決まっていますが、アメリカにはそれがないため、一夜にして株価は1/10にまで値を下げていました。

 

アナリストは企業の報告を基に取材をしたりしてレポートを書きあげます。

その企業が嘘をついていることを見破れることもないわけではありませんが、各企業の決算や見通しなどの報告は信じないと仕事にならない部分は大きいです。

 

つまり、粉飾決算をされてしまってはアナリストの評価が根底から覆るということですね。

 

日本時間の夜中に粉飾決算が明るみに出た次の日の朝、出社したら支店長室に呼ばれました。

そこで私は自分の顧客があり得ないほどの損失を被っていることを知ります。

 

衝撃という言葉では表現しきれないほどのショックで、私は言葉を失いました。

冷や汗を通り越えて脂汗をかき、吐き気すら覚えるほど。

当時の私は、1000万なんて稼いだこともないわけですから事実を受け止めることで精いっぱいでした。

 

外国株の取引きは大きな手数料が入るため、支店長もフォローに入ることが多いです。

支店を支える顧客の一人にその社長がいたわけですね。

 

とにかくありのままを伝えるしかないとの話しに落ち着き、取り合えず電話をしないといけなくなりました。

 

出社直後から支店長室に呼ばれて10分以上出てこないので、自席に帰った時には支店中がその事実を知っていました。

 

皆が大注目の中で電話を掛けるのは相当に緊張しましたが、それよりも気遣うべきは社長のことです。

逆に支店から追い込まれて悩む時間もなく電話を掛けさせられたことは良かったのかもしれません。

 

「社長、すみません。

買ってもらった〇〇に粉飾決算が発覚して株価が暴落しました」

声は震えていました。

緊張もすごかったですし、事実が重すぎました。

「どのくらい下がったんだ?

「1/10になっています」

「・・・」

私は真下を向いて何とか事実を述べるのが精いっぱいでした。

それを聞いた社長は黙ったまま会話は途切れます。

 

見兼ねた支店長が電話を変わってくれて、ひとしきり謝った後とにかく一度お会いしたいということで約束を取り付けました。

 

すぐに用意を整えて社長の会社に支店長と二人でいって、経緯を説明しました。

恐らく倒産するだろうと支店長が言った時には涙を堪えるのに必死でしたね。

悲しかったのではなく、悔しかったのでもなく、申し訳ないという気持ちが強かったです。

どうやって感情を処理をしたらいいのか全く分からなくて、社長の顔を見ることはできませんでした。

 

話しを聞き終わると、社長はケロっとした声の感じで

「粉飾なら仕方がないから、そのまま潰れるならそれまで記念に持っておこう」

と話されました。

税金上の話や見通しをしっかり説明しましたが、考えは変わらず、結局保有することとなって支店に帰りました。

 

その後、信用を失ったその企業は数日で実質的に倒産が決まりました。

 

経験から思うこと

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その社長は投資に関しての考えがしっかり固まった投資家でした。

経験も長く、額も大きいので大きな損失も大きな利益も、それまで何度も繰り返してきていたので、当然ショックを受けるものの、冷静に対処して下さったのは、本当にありがたいことでした。

 

当時の私はまだ入社2年目でしたから、この事件が私に与えた影響は非常に大きいものとなりました。

株は紙になることもある怖いものだと、調子になる前に知れたことはとても大きなことだったとは思いますが、ここまでしんどい体験から学ばなくてはならなかったのは辛かったです。

 

その社長は自分で調べて取引をするかどうかを決める顧客だったので、本当の「提案」ができる数少ない顧客の一人です。

メリットを挙げれば、それと同等のデメリットを求めますし、どちらかに偏った提案は受け入れることはありません。

 

だからこそ、多額の損失を許容できたのだと思います。

もしそうでなかったなら、事件には訴訟と言う先の話しがあったのかもしれません。

もちろん、人を騙すような提案などしませんが、そうであったのではないかと顧客が思ってしまうのは致し方の無い部分があり、知識がなければ尚更でしょうし、損失の額が大き過ぎて冷静さを失っても当然な部分があります。

 

この経験から、夢を見るように株を始める顧客には徹底的に基本を説明しました。

失っても良い資産しか株には投資をしてはいけないことも徹底しました。

 

この経験は幸いにも1度だけの経験だけで済みましたが、株にはこういうことがあることを知ってもらいたいということは強く思うところです。

 

確率の観点からはそう大きくありませんし、企業規模が大きくて創業から長く続けている企業ほど信用力はあります。

 

選ぶ銘柄で変わってくる部分は大きいと言えるでしょう。

 

しかし、信用リスクは顕在化することが稀でも、一度意識されると影響は大きいです。

多額の利益を狙って、リスクの取り過ぎになることは気をつけてもらいたいという思いは今でも相当に強いです。

 

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