私が証券営業で始めて土下座した時の話|顧客への誠意と私のやらなければならない仕事の狭間
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証券営業に限らず、営業の仕事は、営業だからこその経験を皆さんがしていると思います。
人と人だから面白いところがある反面、もめることもありますし、激怒されることもあります。
今回は「私が証券営業で始めて土下座をした時のお話」です。
展開を予想すると、多くの場合で謝罪とか、トラブルの方向で考えると思いますが、そういった形ではありません。
どうしようもなく追い込まれた背景
前回の記事です。
長い記事になってしまっているので読みたくない人のために概要を説明します。
当時、個人向け国債の募集をしていました。
プロモーターというその商品をリーダーとして引っ張る役割を与えられた私は、紆余曲折を経てラスト100万までノルマを詰めました。
そしてラストの100万は上の記事で主役を張るある女性が興味を持ってくれます。
その興味が自分に向いているとも知らず、私はその女性に誘われるままに食事に向かい、枕営業の誘いのようなものを受けるというあらすじのお話です。
そこでは敢えてラスト100万がどうなったのかを説明しませんでした。
あまりにも長くなってしまったことと、その後にドラマがあったので敢えて割愛することにしたのです。
では、そのラスト100万はどうなったのかについてを今回はお届けします。
もう当たる先が無い
上の記事でも触れていますが、ラスト100万円の案件を作るのに、当時は本当に苦労していました。
その窮地を救ってくれるはずだったのが枕営業に誘ったその女性だったのです。
しかし、トラブルによってその話は流れます。
でも金額を見れば100万ですから、どうとでもなる数字なんだからガタガタ言うなと上司は見ます。
結局流れた話はたった100万、すぐに穴埋めして次の仕事をしろというわけですね。
でも私の事情は違っていました。
もうこれからどうあがいても100万が埋まらない。
当時の私に取って100万の個人向け国債を買ってもらうことは簡単な作業だったはずですが、時の運に完全に見放されて、なぜだか分からないくらいに苦労していたんです。
それでもやるしかないので、今度は再度懇意にしてくれていた顧客を「訪問」によって落とすことを考えます。
名付けて
「近くのお客さんと約束があったので、ついでに来ちゃいました」
大作戦です。
アポなしで10件くらいを車で回りました。
しかし、一度は断られたお客さんがほとんどです。
ニーズはあるわけもなく、ただの熱意で押すのですが、如何せん利回りが悪いのが個人向け国債の特徴。
懇意にしてくれていた顧客は投資意欲の高い層なので国債はどちらかと言うと、嫌いです。
やはり上手くいきませんでした。
完全に追い込まれて、上司に言い渡されたタイムアップを迎えます。
少し帰社時間が予定を過ぎていいたので、会社に連絡を入れます。
帰る時間を伝えようとすると、なぜだか電話は副支店長に繋がれます。
私から連絡があったら繋ぐように言われていたようでした。
「取れたんか?」
単刀直入に聞いてくるのはこの業界特有でしょうか。
珍しくはありません。
「いえ、すみません」
私は蚊の鳴く声で答えます。
「取れるまで帰ってこんでええわ」
…ですよね。
電話が転送された時点でこの結末は予想できました。
もう期日が無い募集期間の中で、私はもう待ったなしの状態でしたから。
電話を置いて、しばらく考え込みます。
さて、どうしようか。
もうあの人しかいない
たくさんの顔を浮かべて当たる先を検討しましたが、最終的に落ち着いたのが、私に最初にできたお客さんでした。
その経緯については下の記事で触れています。(長いので読まなくて良いです)
飛び込み初日にできたお客さんで、その後もよくしてくれた方です。
高齢だったので、商品は提案しないようにしていました。
必要がないと思っていたんです。
でも、その時確実に買ってくれるだろうと思わせてくれる人はこの人以外に浮かばない状況。
しかも時間は夜7時を過ぎていて、2軒あたる余裕もない。
私はその人のところへ向かいました。
着いたのが8時少し前だっと思います。
私の訪問にかなり驚かれていました。
当然ですね。そんな時間にいきなり訪問するのはおかしいです。
普通の提案をする空気はそこにはありませんでした。
土下座で伝えたかったこと
私が新人の頃から可愛がってくれた人を裏切りたくなくて、完全に警戒と言うか、心配してくれているその人を見て、私は真っ先に土下座をしました。
予定していたわけではなく、自然と体がそう動きました。
騙すことは可能でしたが、そうはしたくなくて、全てを一からお話したかったんです。
後ろめたい気持ちを処理できていませんでした。
「1年ちょっとの間、100万私に貸したと思って、買ってもらいたい商品があります」
個人向け国債は1年保有すると売却が可能でした。
ただ当時は税金の関係で1年と少しの間保有しないと元本に僅かでも欠損が出るのでこの言い方をしました。
「どうしたの?」
「ちょっと落ち着いて話をしなさい」
そういって、私に手を差し伸べてくれ、30分程度で事の成り行きを全て説明しました。
商品云々よりも、なぜ提案に(お願いに)来たのかを説明することの方が大事だと思ったんです。
全くお客さんに取って必要のない取り引きであることも伝える必要がありました。
本当は断って欲しかったのかもしれません。
できることは全てやった。
土下座までしたけどダメだったと言う気持ちで、怒られに帰るつもりになって話をしました。
しかし、そのお客さんから返ってきた言葉は、最初に私が予想した言葉でした。
「1年ちょっとでいいなら買ってあげるわよ」
とても複雑な気持ちもあったのですが、正直嬉しくなっていました。
気持ちが届いたような気がしたんだと思います。
救ってくれる人がいたのが、やはり嬉しかったのでしょう。
肩に乗っていた責任が、私には重いものだったとも思います。
まとめ
振り返れば、こんなことをしてまで、又お客さんが必要のない取引をさせてまで、やる必要はなかったと思います。
その日に手ぶらで帰れば怒られたでしょうが、先輩に相談するなりしてどうにでもできたはずです。
でも、それが私の営業マンとしての意識を大きく成長させました。
気持ちで付き合ってくれる人がいることを改めて知って、自分がどのような営業マンになるべきかを学んだと思っています。
最終的にそれは夢となっていきましたが、叶わずに今に至ります。
しかし、その過程には誇りを持てていますし、選択に対する後悔もありません。
土下座と言うと少しオーバーな態度で、間違っても良い行いとは思いませんが、今回書いたことは私に取って良い思い出になっています。
お客さんにも本当に僅かな利息を受け取ってもらう形でしたが、ご資金はお返しできました。
こんな付き合いがあることは証券マンならではかもしれませんね。
金融機関の人間としては、ダメな営業マンですが、実はこの業界ではこんなことが頻繁にあります。
土下座ではないですけどね。
気持ちで付き合う社長さんなどは少なくないんですね。
証券業界はもう少し洗練されないといけない業界ですが、「こんなこともありました」ってお話でした。
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